未来のかけらを探して

3章・過ぎた時間と出会いと再会
―31話・故郷への道は晴天なり―



―宿屋・食堂―
城内の食料店で買い物をした一行は、今日泊まる宿屋に付属している食堂に入っていた。
ここにもやはりたくさんのモンク僧が出入りしていて、
時間も食事時とあってほぼ満席状態だ。
座れないかとも入った時は思ったくらいだったが、
幸いテーブルが1つ空いていたので、そこに何とか座ることが出来た。
『いっただっきまーす!』
ご機嫌で食事の挨拶をするプーレ達の前には、
注文した料理が所狭しと並んでいる。
近くのテーブルの客がびっくりして、何人かこちらを見ているが、
おいしい食べ物を目の前にした彼らには些細なことだ。
さっそく、食いしん坊のパササとエルンがパンにかぶりつく。
「いつもながら、いい食べっぷりだな〜。」
そう言いつつ、アルセスも大きなソーセージをほおばった。
横でプーレも、サラダのレタスをフォークに突き刺している。
すでに口が動いているのは、先にパプリカを口にしたからだろう。
普通の子供は苦手な野菜も、プーレにはおいしい食事だ。
苦い緑のピーマンならともかく、赤や黄色のパプリカは甘みがあるので平気らしい。
それを見るアルセスは、少し羨ましそうだ。
獣人族は肉食寄りなので、あまりたくさん野菜を食べるとおなかを壊しやすい。
育ての親は人間ということもあり、野菜をおいしく食べられるのはちょっと羨ましいのだ。
「ここのごはんオイシイー!」
パンとおかずの魚を交互に口につっこみながら、
パササはすこぶる機嫌がいい。
そもそも好き嫌いがない上に味の良し悪しにうるさくない彼でも、
やはりおいしい料理はちゃんとわかるものだ。
「いくらでも食べられそうだよねぇ〜♪」
“お前らは、そもそもいつもいくらでも入ってると思うけどなー。”
エメラルドがドサクサ紛れにからかうが、それすら今は無視らしい。
食べ物の力はまことに偉大である。
普段なら、パササが今のタイミングで即座に抗議するところだ。
「うわー……2人とも全然聞いてないな。」
「食べる時は夢中だもん。
あ〜、やっぱりファブールのお野菜が一番かも!」
アルセスに相槌を打ちつつ、プーレもサラダに舌鼓を打っている。
故郷の国の食べ物は一番舌に合うのか、すっかりその味にメロメロになっていた。
「ところで、これからまずどこに行くって決めたっけ?」
「えーっ、どこって言われてもナ〜。あぐっ。」
とりあえず食べながら話をしようと思ったらしいアルセスに話を振られて、
食べる手は休めずにパササは考え込んだ。
「ごっくん。やだな〜2人ともー。プーレのおうちだよぉ?」
言いだしっぺその1は忘れていたらしいが、その2はしっかり覚えている。
エルンがしっかり覚えているのは、ちょっと意外だ。
と、アルセスは少し失礼な感想を持った。
「そういえばそうだったっけ……。
うーん、いざ行こうと思うとちょっとまよっちゃうな〜。」
難しい顔をして、プーレはリンゴジュースを飲む。
ここに来る前も少し気が進まなさそうな反応だったが、
その心境は今も変化がないらしい。
だが、一度行くと決めてここまできてしまった以上、
今更やめたといえる状況ではない。
「どうしてもなら、森の外で留守番するかー?」
「えっ?!う、ううん!」
アルセスが気を使って提案したが、
そう言われると予想していなかったプーレは、びっくりして首を横に振った。
別に、わがままを言って皆に迷惑をかけるつもりはなかったのだ。
「やっぱり、プーレもいっしょに行くよねぇ〜!」
「なんたって、自分のおうちだもんネ☆」
プーレの気を知ってか知らずか、パササもエルンものんきに言う。
よっぽど楽しみにしているのだろうか。
楽しみにされても、どこにでもある普通の森で群れも至って普通なのだが。
と、言った具合にプーレはいまいち気持ちが分からない。
「えーっと、ここから何日かでいけるんだろ?」
「うん。東の山にかこまれてるところだよ。ちょっと遠いかも。」
ファブール城から見ると、
東に行った後に山脈に囲まれた森を目指して北に歩くことになる。
丁度、逆L字型のルートで回りこむというわけだ。
「ここか〜。」
アルセスが地図を広げて確認する。
確かにプーレが言うように、ちょっと遠い。
もちろん、ここまでに移動してきた距離を考えればどうって事はないが。
だが、地形の都合でまっすぐいけないのは若干しゃくかもしれない。
しかし、別に道中にとんでもない場所を通るわけでもないのだから、このくらい許容範囲だろう。
「へー、ココ?」
地図を広げていると、食べながらパササも覗き込んできた。
幸いこぼれるものを口にしていないから、地図は汚さずに済みそうだ。
「まわりがお山なんだねぇ〜。」
食べていて聞いていなかったのか、
地図を見て初めて森の周辺が山だと気づいたらしい。
「何かおいしいのってあル?」
「え?えーっと……ギサールとミメット。」
急に名産を訪ねられても、
どこにでもあるような野菜しか出てこなかったのはご愛嬌だ。
「たしかにおいしそうだねぇ〜♪」
もっとも、エルンには大して気にならなかったようだが。
野菜に目を輝かせるエルンとは対照的に、アルセスはちょっと苦笑いする。
「いいよなー……お前ら野菜食べれて。」
“ギサールはしょうがないけど、
ミメットでもアルセスはおなか壊しちゃうよな。たぶん。”
ギサールの野菜は、雑食の人間でも食用にするには向かないが、
ミメットの野菜は火を通せば食べられる。
しかしアルセスは肉食傾向が強いので、
これでもあまり食べるとおなかを壊す可能性が高いのだ。
「相変わらずソンだネー。」
「うーん、ちょっとだけな。」
パササのちょっと同情するような言葉に、アルセスは曖昧に笑って返すしかなかった。


―翌日―
ファブール城を後にしたプーレ達は、地図に従ってチョコボの森に向けて出発した。
太陽がそれなりに高くなってきても、冷涼な気候なので暑くはならない。
ここに来てから、アルセス以外には何よりそれがありがたい。
砂漠とは違う穏やかな日差しが、ファブールの草原を明るく照らしている。
天気も絶好の旅日和だ。
見通しがいいので、モンスターに急に襲われることも少ない。
プーレ達の足取りも軽くなるというものだ。
「プーレのおウチー♪」
パササが妙な鼻歌を歌いながら、足取り軽く歩いて行く。
「なんだかなー……。」
妙に上機嫌なパササの様子に、プーレは何とも複雑な気分だ。
嫌と言うわけではないが、ついていけない。
「まあ、そういうなよ。
やっぱり、旅は楽しくなきゃだめだろ?」
「そうだけど〜……。
うちの森のごはん、すごく珍しいのがあるわけじゃないから、いいのかなーって。」
「別に、そんなのいいと思うぞ。
こいつらは、単にお前の家が見たいだけみたいだし。」
アルセスが言うとおり、
パササもエルンも関心は珍しく食べ物ではなく場所そのものだ。
「そっかー……ぼくの家、まだちゃんと残ってるかなぁ。」
家というよりは、チョコボなのだから巣だろうが、
人間の家と違ってしっかりした屋根があるわけでもない。
もちろん雨に濡れないように構えているが、
手入れをしなければあっという間にボロボロになるし、別の仲間が使うことだってある。
それが常識だから、半年以上、
いやもっと空けているはずのプーレの家は、
寝藁などはもう跡形もなくてもおかしくない。
「仲間とかが面倒見てくれないのか?」
“チョコボだから、どうだろうな……。
まぁ、仲間の性格にもよると思うが。”
ルビーは断定を避けつつ、思案するように呟いた。
いくら長くこの世を見ていても、そこまで細かいことはいちいち把握できない。
あくまで、人間に持ち運ばれた範囲での知識なのだから仕方がないが。
“だけど、チョコボは基本的に気がいい種族だから、
群の子供の帰りくらい待っていると思うぞ。”
「そっかー、やっぱそうだよな!」
群というのは、形態にもよるが家族のようなものだ。
留守にしているプーレの巣をちゃんと守っててくれるに違いないと、
アルセスはうんうんと納得している。
「何の話してるの?」
1人で何か悟ったような様子のアルセスを、不思議そうにプーレが見上げる。
「えーっと、大したことじゃないよ。」
よそに気でも取られていたのか、
今の話を聞いていなかったプーレにそういって取り繕う。
別に聞かれて困ることでもないが、
かといっていちいち説明することでもないと思ったからだ。
「ならいいや。」
プーレは頭の中がこれから帰る故郷のことで一杯なのか、
アルセスの話を追求するどころか、知りたがるそぶりも見せなかった。
やはり、故郷に帰るというのは一大事なのだろう。
と、ルビーはこっそり思った。
“フンフンフーン♪”
同じ袋の中では、エメラルドがのんきにテレパシーで鼻歌を歌っていた。
何が楽しいのかとルビーは思ったが、
飄々として気分屋な彼の行動だからいちいち気にしても仕方がない。
少なくとも、いつもの調子でいらないちょっかいを出して、
パササを怒らせるよりはよっぽどおとなしいことだ。




その後もプーレ達は、天気に恵まれた道を、
大きなトラブルに見舞われることなく進んでいった。
目指すプーレの故郷の森まで、この調子なら予定通りにつけるだろう。
その見込みは正しく、プーレ達はすんなりと目的地の近くにやってこられた。
「あ、見えた!あそこが、ぼくがすんでた森だよ!」
「わ〜い、ついたー!」
“こらこら。ちょっと気が早いぞ。”
一足早く喜ぶエルンを、ルビーが苦笑いと言った様子でたしなめる。
確かにここまで来れば目と鼻の先だが、着いたというにはちょっと早い。
少なくとも、後もう少しは歩くのだから。
別に喜ぶこと自体は構わないのだが、ちょっとセリフが先走り気味だった。
そういうところは、子供らしくてとても可愛いと思うが。
「それにしても、ホントに周りが山だね〜。
何か取れちゃったりするノ?」
「んー、どうなんだろ。ぼくはあんまり知らないけど……。
時々人間が木を切りに行ってるよ。」
「それは普通だよな。それくらいか〜。」
プーレの知識の範囲内では、至って普通の山というわけだ。
ということは、少なくともチョコボにとっては単なる裏山ということだろう。
人間にしてみれば、木が取れるだけでもありがたい。
ファブールは特に冬場が冷えるから、燃料としても役に立てているはずだ。
「なーんだ。おもしろいものあるかなーって思ったけど、違うんダー。」
一体森の裏山を何だと思っているんだという話だが、
パササの認識はこんなものだ。
「ぼくも前にさがしたけど、何にも出てこなかったよ。」
「そーなんだぁ〜。」
兄と一緒にえさを探しに入った時、珍しいものがないかと思って色々探したものだが、
自生しているもので珍しいものは特になかった。
ふもとの森や草原にあるものと大体同じで、ちょっとだけつまらなかった記憶がある。
「あ、でもラサンの実があったかも!」
「ラサンの実?何だそれ?」
急に声を上げたプーレにちょっとびっくりして、アルセスが訪ねた。
「ぼくたちチョコボが大好きな木の実なんだ。
すっごくおいしくってねー……思い出しただけでよだれが出そう。」
ラサンの実は、チョコボ達には垂涎の的の木の実だ。
人間が食べてもおいしいが、それ以上においしく感じるらしい。
うっとりとした表情で、プーレはあさっての方を見ている。
彼も一般のチョコボの例に漏れず、大好物なのだろう。
うっかり溶かしてしまったチョコレートかゼラチンのような顔になっている。
プーレもこんな顔をするのかと、付き合いが浅いアルセスは内心驚いた。
「それって行ったら食べられるー?」
「うーん、今ならあるかも。後で探しにいこっか!」
「わぁ〜い♪」
珍しくプーレが言いだしっぺとなって、ラサンの実探しはプランとして決定したようだ。
もちろん、食べることが大好きなパササとエルンは、
言うまでもなくかなり乗り気である。
“食べるの好きだなー、ホントにさぁ。”
“子供だから、な……。”
無機物だけに食べる楽しみとは縁がないエメラルドとルビーは、それを遠巻きに見るだけだ。
しかしながら彼らは、子供は食べることと遊ぶこと、
それから寝ることが仕事のようなものだとは知っている。
だから、別に理解に苦しんだりと言うことは特になかった。
それよりも故郷に帰った時に、
プーレはどんな反応をするのか、そっちの方が気になっているのだが。



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プーレの故郷への道中で1話終わっちゃいました(笑
さすがに(?)平和な道中です。このパーティには珍しいかもしれませんけどね。
次回はいよいよプーレが故郷の森に帰ります。
仲間たちのリアクション等は今から描くのが楽しみと言うか、
ちょっと気合を入れようかなといった具合ですね〜。
見せ場って程じゃありませんが、プーレにとっては大事なシーンのはずなんで。